Vol.08
宮崎上水園と言えば、水出し茶。「自生する本来の茶のような、渋みのないお茶づくり」に自家茶園で取り組むと同時に、始まったのが「水出し茶」の開発です。
夏場の飲み物と言えば、コーラやサイダー、ウーロン茶が主流。お茶は生産過剰気味とされて、静岡県などの産地では、品質の落ちる三番茶の摘採自粛が起こり、価格も落ち込んでいきました。そして、もう一つ懸念されたのが、子どものお茶離れ。大人が好む“渋い”お茶ほど、子どもは嫌がります。「大人になればお茶を飲むようになる」という悠長な考えではいられず、子どもにお茶を飲ませたかった。それは、Vol.1でもふれましたが、幼少期、井戸水でお茶を冷やし、飲んでいた記憶があったからです。「どうせ冷やすなら、最初から水で出せばいい」、当時、子どもながらそんなふうに思っていました。
「3年間、やらせてほしい」。父と妻にそう頼んで、孤軍奮闘の日々がスタートしました。
水出し茶開発において、最も苦労したのは、加工です。緑茶は、日本独特の加工法によってつくられます。摘まれた生葉はみるみる酸化が進んでいくため、酸化酵素を不摂生化させるべく、蒸気で蒸します。紅茶は、酸化酵素の働きをあえて促進し、発酵させてから揉み、乾燥させて仕上げる、完全発酵茶。烏龍茶は、発酵を途中でとめる、半発酵茶です。こうした加工の違いによって、さまざまなお茶が生まれるわけです。
緑茶の場合、生葉の状態によって、蒸すときの条件(圧力や蒸気量、蒸す時間など)が微妙に変わるため、熟練の職人でも神経を使います。
「ただ蒸気の熱を伝えて蒸しているから、効率も悪いし、安定しない。物質の交代をさせなければならない」。これが、原先生からのアドバイスでした。理解するのに3年余りの月日を費やしました。
やわらかい茶葉は加工しやすい。けれど、今回取り組んだお茶づくりでは、茶葉の組織がしっかりしているため、そのぶん加工も難しい。うまくできることもあれば、突如としてうまくいかず、真っ赤になったり、ひどい臭いがしたり……。生葉が摘み取られてきても製品化できず、空回りばかり。経営維持のため、これまでの製法も続けていましたが、まわりからは「最近の上水園は変わった」と言われ、売上も落ちていきました。「もし駄目だったら先代に申し訳ない。人間をやめる」。そう思うほど一時は、ひどい精神状態でした。
それでも進むしかない。茶葉のないシーズンには、ほうれん草で実験を繰り返し。そうしてようやく、葉の中の水が、空気中の湿度、蒸気量によって違うことが、わかり始めたのです。